いつも購読ありがとうございます。
今回はランニングとは関係なく、本の話です。
毎年かなりの高確率で「読んでよかった」と思わせてくれる本屋大賞。
直木賞や芥川賞よりも、“実際に売り場で読者と接している書店員”が選んでいるため、エンタメ性と読みやすさのバランスが良く、個人的にはハズレが少ない賞だと思っています。
そのため、毎年少なくとも大賞作品は読むようにしています。
ですが、2026年本屋大賞受賞作のイン・ザ・メガチャーチ は、自分の中ではかなり評価が難しい作品でした。
完成度は高く、テーマも現代的。文章も非常に読みやすい作品です。
それでも、どこか最後まで乗り切れませんでした。
その理由は、この作品の中心にある“推し活文化”への距離感にあるのだと思います。
『イン・ザ・メガチャーチ』あらすじ
レコード会社に勤務する久保田慶彦は、7年前に妻と離婚し、娘とは月1回30分だけビデオ通話する生活を送っています。
仕事でもうだつが上がらないなか、同期で敏腕プロデューサーとなった藤井から連絡が来ます。
それは、“物語の力”でアイドルを売り出すプロジェクトへの誘いでした。
かつて脚本家志望だった久保田は、アイドルに設定や背景を与え、ファンを熱狂させる“物語”を作る側として関わっていきます。
一方、久保田の娘・武藤澄香は、国際系大学に通う女子学生です。
留学を考えながらも、自身の内向的な性格に悩んでいました。
そんななか、バイト先の同僚ユリを通して新人アイドル・垣花道哉を知ります。
しかも道哉は、自分と同じ誕生日で、MBTI(人の性格を16タイプに分類する性格診断)も同じでした。
その“偶然の一致”に運命を感じた澄香は、少しずつ道哉へ自分の全てを注ぎ込んでいきます。
さらに、35歳の契約社員・隅川絢子は、新進俳優・藤見倫太郎を推すファンダム「りんファミ」の一員です。
少ない給料をやりくりしながら推し活を続けていましたが、突然、倫太郎の自殺が報じられます。
推しの死を受け入れられない絢子たちは、やがて陰謀論へとのめり込んでいきます――。
立場も世代も違う3人を通して、“推し”と“物語”に支配される現代社会が描かれていきます。
47歳の久保田パートはかなりリアルでした
個人的に最も共感できたのは、47歳の久保田でした。
年齢が同じこともあり、彼の停滞感や孤独感はかなりリアルに感じます。
離婚後、娘との関係も遠い。
仕事でも評価されない。
「このまま人生終わるのか?」という焦燥感だけがある。
あの“くすぶった中年男性”の描写は非常に上手いと思いました。
しかも久保田は、アイドルを推す側ではなく、“熱狂を作る側”にいる人物です。
ファンを夢中にさせる設定を考え、感情を動かすストーリーを設計する。
つまりこの小説の中で、唯一メタ視点を持ったキャラクターでもあるんですよね。
だから同世代の読者ほど、澄香や絢子より久保田に感情移入しやすいのではないでしょうか。
推し活への“熱量”に乗れるかどうか
この小説は、かなり本気で推し活文化を描いています。
SNSコミュニティ。
ファンダム。
推しへの依存。
陰謀論化するファン心理。
特に、推しを失った絢子たちが陰謀論へ傾いていく描写はかなりリアルでした。
しかし同時に、「そこまで行くのか?」という感覚も強かったです。
もちろん現実でも、SNS時代には似たような現象が起きています。
だからテーマとしては非常に現代的です。
ただ、“理解できる”と“共感できる”は別なのだと思いました。
この作品は、その距離感によって評価がかなり割れる気がします。
それでも本屋大賞に選ばれた理由は分かります
一方で、「なぜ本屋大賞を受賞したのか」はよく分かります。
この作品は、とにかく“今の空気”を切り取るのが上手い。
孤独。
承認欲求。
SNS依存。
コミュニティへの帰属意識。
誰かを推すことで人生を支える感覚。
現代社会のリアルがかなり濃密に詰め込まれています。
しかも文章は読みやすく、エンタメとしての推進力もある。
書店員が「多くの人に読んでほしい」と感じるのも納得でした。
まとめ
イン・ザ・メガチャーチ は、“推し活”と“現代の孤独”をテーマにした意欲作でした。
個人的には、本屋大賞作品としては珍しく「ハズレ寄り」という感想です。
ただ、それは作品の質が低いという意味ではありません。
むしろ、“今の時代”を強く反映しているからこそ、自分との距離感がはっきり出る作品なのだと思います。
そして、唯一強く心に残ったのは、47歳の久保田でした。
何者にもなれなかった男が、それでも誰かを熱狂させる“物語”を作ろうとする。
その姿だけは、不思議なくらいリアルだったのです。
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